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原油市場に対する考察(2020年4月最新)

※2020年4月4日アップデート!

こんにちは!総合商社マンです!今日は原油市場の考察をしてみよう!

皆さんいかがお過ごしでしょうか?コロナショックで世界中の国々が国境封鎖や移動を制限する等、本当に過去に大変したことのない異常事態が起きていることを肌に感じております。

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本日のブログは現在話題になっている原油市場に対する考察です。この記事を最初に書いたのは2020年3月18日で、原油価格はWTI原油で25ドルを下回る歴史的安値に推移していました。その後20ドルを下回る歴史に残る相場で推移し、4/4時点でOPEC+の動きもあり29ドル台回復を回復と原油相場から目が離せない日々が続いています。

今回はここまでの下落に至った経緯と今後の原油価格に対する考察を各国の事情を交えながら行ってみたいと思います。

 

 

原油市場動向

まず最近の原油暴落を時系列で見ていきましょう。

2020/3/5

OPEC臨時総会がオーストリアのウイーンにて開催。追加150万bd*1の協調減産で原則合意しました。但しこの合意、ロシアを交えたOPEC+で合意をすればという条件付きでした。この日のWTI原油先物は45ドル程度でした。

2020/3/6

OPECプラスでまさかのOPECとロシアが協調減産に合意できず決裂します。これによりWTI原油先物は前日4ドル程度下落し41ドルとなりました。この時点では3月末まで現状の協調減産は有効だったため、3月末までに再度協議をするのではという思惑が市場にあったこともあり、41ドルまでの下落に収まっていました。

2020/3/9

そしてこの日、サウジアラビアは3月末まで有効であった協調減産を反故にし、まさかの1,230万bdの増産を宣言、一気にWTI原油先物は30ドル割れに突入します。

 

その後も乱高下を繰り返し一時30ドル台回復するも3月27日時点で油価は21ドル台で推移していました。

※ちなみにOPEC加盟国はイラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ、カタール、リビア、・アラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリア、ナイジェリア、エクアドル、アンゴラの12カ国で、OPEC+はこれにロシアを加えた組織になります。

原油価格に対する各国の立ち位置(サウジ・ロシア・米国)

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 上記の流れで今回原油の暴落に繋がったわけですが、ここでOPECプラス主要国のサウジとロシアの原油価格に対する立ち位置を整理してみましょう。立ち位置というのはこの原油暴落に対する耐性で、それは両国の原油採掘コストと国家予算に対する前提を見るとわかります。

 

 1bd当たり

原油採掘コスト

国家予算前提

サウジアラビア

10ドル以下

60ドル

ロシア

25ドル程度

42ドル

 

  • 採掘コスト:サウジアラビアが圧倒的に安く、ロシアが高い。
  • 国家予算:サウジアラビアが圧倒的に高く、ロシアが安い。

採掘コストに関しては想像しやすいかと思いますがその言葉の通りでその国の原油を採掘するにあたりどの程度の費用が発生するのかです。つまりこれを下回ると原油を売っても利益が出ません。

一方で国家予算前提というのはその国の国家予算を編成するにあたり、原油価格をいくらにおいて収入を計算しているのかの数字になります。分かりにくいかもしれませんが、言い換えるならこの国家予算前提の原油価格を下回ってしまうと、その国の予算は赤字になり当初決めた国内の投資計画にお金が回せなかったり、社会保障費が賄えなくなったりします。日本でも最近の予算委員会で予算が100兆円超えたとか聞いたことありませんか?要はあれです。もちろん油価が低迷をして、この国家予算前提を下回ってしまうと国は財政赤字になってしまいますので国債を発行するなどして補填をすることになります。

サウジアラビアの特徴

 サウジアラビアはもともとオイルマネーで潤った国でオイルビジネス以外に目立った産業もありません。そのため国を挙げてオイルビジネス以外の産業を育てようとしたり、ソフトバンクグループと一緒になってビジョンファンドを立ち上げて各国の有望企業に投資をしたりしています。また聞いたことある方もいるかもしれませんがサウジアラビアは現在紅海沿岸の砂漠で何も無い土地にNEOMという一大近代都市を建設しようとしたりしています。そうしたこともあり、莫大な資金が必要で国家予算前提の原油価格も高めになっているものと推察されます。

 ロシアの特徴

 一方、ロシアの採掘コストは25ドルとサウジに比べ高めです。サウジは砂漠の特に開拓の必要のない土地から金の水オイルが湧き出ているためコストは低いですが、ロシアは森林を切り開いたり、極寒の大地での採掘作業が必要であったりするのでコストが高くなっているわけです。一方サウジよりはまだ他の産業も育ち始めていますので(まだまだですが)国家予算前提も控え目にしているのでしょうね。

 

米国の特徴(シェールオイル)

 そして原油市場を見るときに忘れてはならないのが米国のシェールオイルの存在です。というのも2016年のシェール革命で米国が従来の原油純輸入国から純輸出国に変わった今、OPEC+だけでは価格のコントロールが効かない、言い方を変えるとOPEC+のパワーが低下しているためです。シェールオイルの採掘コストは一般的に50ドル程度と言われており、今回これを遥かに下回る価格で推移しているため、早晩シェール企業は倒産してくことになるでしょう。

ちなみに値上がりするまで操業止めて待てば良いのでは?という意見もあったりはしますが、なかなかそんな簡単なものではなく、一度採掘を止めてしまうと再稼働するために長い時間と巨額のコストが発生してしまうのです。当然資金繰りの問題もありますよね。

※ちなみに総合商社もシェールガスに投資している企業がいますので今回のコロナショックで3月末決算で減損処理をする企業が出ると予想しています。

 

原油戦争の勝者は誰か?

今回の原油大暴落によりサウジ(OPEC)、ロシア、米国は全員大損をしており、この中に勝者はいません。中には米国のシェールが潰れればサウジ・ロシアが勝者ではという意見もあるかもしれませんが、上述したようにサウジ・ロシアも国家予算前提の価格を下回っており、各自に大損をしている状態であることに変わりなく、決して両国とも勝者とは言えません。

ではこの原油戦争の最大の勝者は誰なのか?ずばり、今回のコロナの発症国である中国が最大の勝者になります。なぜかというと、世界で最大規模(世界二位)のエネルギー消費国である中国は資源の輸入国です。中国は経済活動が徐々に戻りつつあり、工場も順次再稼働を始めています。つまりこの安値の原油価格を最大限エンジョイ出来るのは他でもなく中国になります。

↓の各国の石油消費量ランキングはご参考までですが、世界の原油需要は以下の通りで米国がトップ、次いで中国が2位です。如何に中国が最大の勝者だということがお分かりになるかと思います。

 

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参照元:(キッズ外務省)1日あたりの石油の消費量の多い国|外務省

 

3/18の原油価格予想おさらい

さて、上記のような各国の油価に対する立ち位置を勘案して3/18に私が予想した原油価格予想のおさらいをしてみましょう。

【以下予想は3/18に記事を書いた時の私の予想です】

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これはあくまで私的な予想ではありますが、原油価格は早晩20ドル割れをすると思います。その根拠ですが過去の下落局面では供給側(OPECプラス)が生産量を調節さえすればある程度値を戻しましたが、今回はコロナショックにより各国の移動制限等あり需要側が完全に萎んでしまっていることです。

ただし、当然この価格ではOPECプラスの各国が立ち行かなくなります。サイド情報としてロシアは国家予算前提より油価が下回ると、油価が高い時に積み立てた基金から補填することなっているのですが、これ実は年金基金なのです。つまりそれに手を付けてしまうとロシア国民の年金原資が減ることになりますので、当然プーチン大統領はそれをしたくないと想像するからです。

また、米国もシェール産業を守りたいという観点からOPEC+に対して働きかけを行うと思います。

そして何より最大の理由は上述したように漁夫の利を得ているのは中国だからです。

従い、晩OPECプラスは再協議に入ると予測します。 また世界各国がコロナショックに対する緩和策を発表し始めています。特に米国はFRBが量的緩和を制限なく実施するとの発表を行っています。日本も日銀がETFの爆買いを進めており官製相場が継続しています。つまり世界中にマネーが溢れている状態です。

纏めると

  1. 直近でWTI原油は20ドルを下回ると予想
  2. それに慌てたOPECプラスが改めて再度協議に入る
  3. 米国もOPECプラスへの働きかけを強める
  4. 一旦油価を戻し、その後コロナショックが落ち着くまでは低位安定で推移する
  5. 一方各国の緩和マネーがオイル市場に流れ込むと40ドル程度の回復もあり得る
  6. 但し、需要の低迷を考慮すると過去の50~60ドルに戻るには時間を要する

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 この予想如何でしたでしょうか?以下のチャートは原油の過去3カ月のチャートと、この1か月のチャートです。私の予想と照らし合わせてみましょう。

【3カ月チャート】※それにしてもすごいチャートだな。笑

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【1か月チャート】

f:id:Sogoshoshaman:20200404061521j:plain

3月30日と4月1日に見事にWTI原油は20ドル割れをしました。そしてこの記事をリライトしている4/4時点でOPEC+が減産に向けて協議開始を発表し、原油は瞬く間に29ドル台をタッチです。今のところ私の予想の1,2の順番で的中していますね。ほっ。笑

OPEC+協議再開

4/3に発表されたOPEC+の協議再開はサウジアラビアのほうから呼びかけましたので、ほぼ確実にトランプ大統領からの圧力が入ったものと思われます。そしてOPEC+の次回会議は4/6(月)です。さーすんなりと決着するかどうか楽しみですね。

 

4/4追記: OPEC+の会合は4/9(木)に急遽延期となりました。

 

ちなみに今回サウジ側がOPEC+の協議再開呼びかけでサウジが提案をした内容は1000万bd(日量)の協調減産になります。なかなかの規模です。といってもピンとこないかもしれないので定量的に言いますと以下です。

  • 3月6日のOPEC+会議が決裂した後にサウジが表明したまさかの増産の規模は260万bdでした。
  • コロナが発生するまでの世界の原油需給は1億bdでした。そしてコロナによる世界の原油需要減退は約2000万bpと言われています。つまり需要減退の半分を賄う規模の減産です。

 

 さー、OPEC+の減産合意に向けた協議が再開するわけですが、ただし、注意が必要です。というのも既に一部はTwitterでもぼやきましたが、ロシアは減産余力がありません。以下3点がその理由です。

  1. ロシアの油圧層はサウジ等よりも低く、一度生産を止めてバルブを閉めると出てこなくなる可能性が高い。
  2. ロシアの原油は他の原油と比べてワックス成分が高く、パイプラインに原油を流し続けないとパイプラインが損傷する。
  3. 冬場はパイプラインを流し続けないと水分が凍結し、同じくパイプラインが損傷する。

これから夏場になりますので3はすぐには問題になりませんが、1,2はロシアにとっては死活問題であり、ロシアが更なる減産に応じられるかは微妙です。ちなみに一つ言っておくと、新聞等ではロシアが協調減産を拒否したため3/6のOPEC+は決裂した、という書かれ方をしていますが、正確に言うとロシアは従来のOPEC+で合意済の減産枠継続には賛成だったが、さらなる減産に応じなかったというのが正しい表現になります。

つまり、今回のサウジの提案である1,000万bpの協調減産(みんなで減産しあって合計で1,000万bp減らしましょうねという意味)をすぐにロシアが二つ返事でOKと言えるのかは微妙で、大半はサウジが減産を請け負うのではないかなというのが私の予想です。

さてさてどうなることやら。原油市場って複雑ですね。笑

はい、今回はこれで終わりです!また原油市場に動きがあればアップデートします!

最後までお読み頂き有難うございました!

 

【3/25追記】

今回のコロナショックの影響で総合商社の一社である丸紅が本日巨額の減損計上を行いました。以下記事で纏めておりますが、原油相場に関して非常に興味深い情報を開示しています。というのも丸紅が今回巨額減損をするにあたり、20年~23年の原油価格を38ドル~39ドルに置いているのです。私が↑で言及した40ドル程度とほぼ一致しますね。笑 詳しくは以下記事を参照頂ければと思いますが、今後原油に投資をする方にはちょっとしたヒントになるかもしれません!

 

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*1:bdはbarrel per dayの略。一日当たりの原油生産量