- この記事を書こうと思った背景
- 原油価格が上昇してもETFが上昇しない理由
- 原油価格上昇とは?
- WTI原油連動型ETF(1671)の運用状況は?
- 原油ETF投資でもっともやってはいけないこと
- コンタンゴコスト10%での原油ETFシミュレーション
- これでもあなたは原油ETFを塩漬けし続けますか?
- おまけ
この記事を書こうと思った背景
この記事をなぜ書こうと思ったのかというと、今回の原油暴落で原油ETFで含み損を抱えてしまっている人がいる中で、「仕方ない、塩漬けしよう」という声がTwitter上でちらほら散見されたためです。塩漬けする、という言う人の中で本当に原油ETFの仕組みを分かっている人がどれだけいるのか、、、と心配になりました。
理由はロールオーバーとコンタンゴだろ?それくらい分かってる!という人も、本当に数字のイメージ持ったうえで分かっているでしょうか?
今回の記事ではそれがどういうことなのかについて、より具体的なシミュレーションをしながら解説していきたいと思います。まだ自信がない方もこの記事を読んだらより理解が深まると思いますので最後までお付き合いください。
原油価格が上昇してもETFが上昇しない理由
原油価格が上昇してもETFが上昇しない理由。「え?なんだって!?」という声が聞こえてきそうですね。笑 昨今の原油価格暴落で俄かに原油ETF投資が個人投資家の中で流行しています。ただし、過去の記事でも散々書いてきましたが、単純に原油価格が反発すれば儲かるというわけでもないことはご承知の通りです。キーワードはロールオーバーとコンタンゴでした。 まだそのあたりを理解していない方はこの記事を読む前に以下記事を先に読むことをお勧めします。
さて、今回は原油ETF投資で最もメジャーなシンプレクス社のWTI原油連動型ETF(1671)を例に挙げながら、原油価格が上昇するとETFがどう動くのかについて具体的な数字で見ていきましょう!
原油価格上昇とは?
まず最初に「原油価格」という言葉。この言葉の意味を理解する必要があります。原油価格というと一般的に最も期日の近い先物の価格を指します。例えば今で言うと6月限月の先物です。新聞記事やネット記事でも原油価格と言ったら今であればだいたい6月限月の価格のことを言っています。
つい先日5月限の期日到来のタイミングで価格がマイナスになり大騒ぎになりましたが、5月限月はもう期日到来して終了しており、現在は6月限月の先物が一番近い限月のものなのですね。まずはこの点を理解して、次に読み進みましょう。
WTI原油連動型ETF(1671)の運用状況は?
WTI原油連動型ETF(1671)の運用状況を見てみましょう。
上記の記事でも紹介しましたが、4/21より急遽運用会社のシンプレクス社が従来開示していなかった「何月限月のもので運用されているのかの内訳」を開示するようになりました。4/24時点では以下の通りです。
日付 | 2020/04/21 | 2020/04/22 | 2020/04/23 | 2020/04/24 | |
限月 | 買い建て玉 | 買い建て玉 | 買い建て玉 | 買い建て玉 | 比率 |
6月限 | 28,533 | 3,087 | - | - | 0% |
7月限 | 7,768 | 24,064 | 24,064 | 23,361 | 73% |
8月限 | - | 4,291 | 6,025 | 8,534 | 27% |
合計 | 36,301 | 31,442 | 30,089 | 31,895 | 100% |
※シンプレクス社開示情報に基づき筆者作成。
御覧の通り本日時点で直近の限月の先物である6月限月のものは保有しておらず、既に7月、8月限月のものにロールオーバー済なのです。つまり新聞やネット上で「原油価格暴騰!!」という言葉を見かけても、だいたいそれは6月限月の価格のことで、必ずしも7,8月限月のものも一緒に暴騰しているとは限らないということです。
もう少し具体的に見ていきましょう。まず以下が7,8月限月の本日の先物価格です。
御覧の通り7月限月で22.23ドル、8月限月で24.81ドルです。1671は7月限で73%、8月限で27%運用しているので、ざっくりですが今日このETFを買うと加重平均で22.92ドルの原油価格でETFを買ったことになります(シンプルに考えるため信託手数料等は無視しています)。
あれ?今の原油価格って16ドルとかそのレベルじゃないの??って思った方がいるかもしれませんが、上記の通り7,8月限月に既にロールオーバーしているので、6月限月の16ドル程度の安値で原油ETFを買えるわけではないのです。
そして注意が必要なのは、例えばちょっと前にこのETFを買った方は「その時はもう少し低い原油価格で仕込めているから大丈夫!」とお思いかもしれませんが、あなたのETFはロールオーバーされた時点で高い原油玉に切り替わっていきますので、その理解は間違いです。ロールオーバーされるたびに高い期先のものを買わされてしまうのです。そしてその差額はあなたの利益にならず、あなたの持ち分の原油が減ります。これがまさにロールオーバーの怖さでしたね。笑
ということで、直近限月が暴騰しても、運用中の限月の先物も合わせて暴騰しないと「なぜかETFが暴騰しない」、という現象が生じるわけですね。
原油ETF投資でもっともやってはいけないこと
原油ETF投資でもっともやってはいけないこと。ずばり言います。「塩漬けです」!!
普通の株の場合は会社の業績が良くなれば株価の回復も期待できます。一方で、この原油ETFは基本的にコンタンゴで期先の先物が高い状態になっていますので、コンタンゴの状況で毎月ロールオーバーしていくことになります。そうすると塩漬けすればするほどロールオーバーコストが嵩んで、立ち直れなくなってしまうのです。「言いたいことはなんとかく分かるけど~~、ま、なんとかなるっしょ!」ってお思いの方、次のシミュレーションを見てください。
コンタンゴコスト10%での原油ETFシミュレーション
コンタンゴ(限月間のスプレッド)が10%発生することを前提に、5/1に買い付けしてから塩漬けして、最後12月に原油が暴騰するとどうなるか見てみましょう。
前提条件
- コンタンゴコストが毎月10%発生
- 原油価格が11月末まで20ドル近辺で低迷
- 12月に20ドルから40ドルまで原油価格が急騰
この前提条件をもっと分かり易く言うと、毎月20ドルから22ドル(コンタンゴ10%)の期先の先物にロールオーバーを行い、ロールオーバーした22ドルの先物が20ドルまで毎月下落するという前提です。その状態が12月まで続き、12月中に突如として原油が20ドルから30ドル、40ドルに急騰した場合どうなるかというシミュレーションです。
つまり、しばらく原油価格は低迷するだろうけど、そのうち暴騰すればいいや!って思っているホルダーさん向けのシミュレーションです。
このコンタンゴ(限月間のスプレッド)を10%程度と置いた根拠ですが7,8月限月価格を先ほど紹介した時の表に青い囲いを付けてみましたので見てください。
これが各月の限月の価格となっており、限月によってばらつきがありますが7月(22.23ドル)と8月限月(24.95ドル)の間に12%の開きがあるのが分かるかと思います。期近の限月間のSpreadは大きくなる傾向にあり、6月、7月間はまさかの30%の開きです。1671は7,8月限月で現在は運用しているので12%という数字をベースに分かり易いように10%という切りの良い数字で今回検証してみる次第です。ではシミュレーションを見てみましょう。
運用限月の 原油価格 |
保有 バレル数 |
純資産 (ETF株価) |
ロールオーバーする期先の 原油価格 |
ロールオーバー後の保有バレル数 | 純資産 (ETF株価) |
|
5/1 | $20 | 1,000 | $20,000 | $22 | 909 | $20,000 |
6/1 | $20 | 909 | $18,182 | $22 | 826 | $18,182 |
7/1 | $20 | 826 | $16,529 | $22 | 751 | $16,529 |
8/1 | $20 | 751 | $15,026 | $22 | 683 | $15,026 |
9/1 | $20 | 683 | $13,660 | $22 | 621 | $13,660 |
10/1 | $20 | 621 | $12,418 | $22 | 564 | $12,418 |
11/1 | $20 | 564 | $11,289 | $22 | 513 | $11,289 |
12/1 | $20 | 513 | $10,263 | |||
12/15 | $30 | 513 | $15,395 | |||
12/15 | $40 | 513 | $20,526 |
いかがでしょうか?純資産をETF価格と読み替えれば分かり易いです。
上の表は何をやっているかというと、仮に5月1日に原油価格20ドルの時に原油(ETF)を1000バレル分買ったとします。20ドル×1000バレルで純資産(=ETF株価)は20,000ドルです。その後毎月10%のコンタンゴでロールオーバーをして、12月1日まで保有しています。その結果、買った時と同じ20ドルの原油価格なのに純資産(ETF株価)は10,263ドルと50%も減少してしまいました。
そして12月15日に突如として原油が急騰、20ドル→30ドルに50%上昇しても、あなたの純資産(ETF株価)は15,935ドルとまだ4,000ドルの赤字、40ドルに暴騰してようやくあなたが購入した時の純資産に戻るだけになります。せっかくの急騰もそれまでのコンタンゴコストで吹き飛んでいるわけです。(最後に説明しますが「急騰」というのがみそです)
このシミュレーションはコンタンゴを10%と置いていますが、昨今の原油相場の大荒れで時にこれが50%まで開くことがあります。つまりコンタンゴを10%と超コンサバに置いて、このシミュレーション結果です。
仮にロールオーバーのタイミングで10%以上のスプレッドが開いていたら、、、考えただけでも恐ろしいですね。そして、このシミュレーションはシンプルにするために為替と信託手数料は加味していません。もちろん円高になれば円建てのETFはさらに棄損することになります。
これでもあなたは原油ETFを塩漬けし続けますか?
いかがでしたでしょうか。原油ETFの難しさをお分かりになりましたか?
今回のシミュレーションを通して言えることは、原油ETFというのはこの限月間のスプレッド以上の原油の動きを捕まえに行かないと勝てない商品ということです。
年末までには原油が40ドルになるから大丈夫だろうと思っている方はこの商品で勝てません。先ほどのシミュレーションの例は最後に「急騰」しているのであなたの資産は多少回復しましたが、急騰ではなく徐々に年末に向けて40ドルになった場合はどうでしょうか。その場合、12月限月の先物原油価格は既に40ドル程度になっているでしょうから、それは既に先物価格に織り込み済ということで、あなたの持ち玉は10月か11月頃に40ドルの12月限月にロールオーバーされてしまい、あなたの利益にはならないのです。つまり、原油ETFで儲けるには先物価格にまだ織り込まれていない「急騰」が必要ということです。そしてロールオーバーでコンタンゴロスが発生すればするほど、資産を回復するにはそれを上回る「急騰」が必要なわけです。いわずもがな運用していない直近限月の急騰は関係ありません。
そういうわけで、中長期(3カ月以上)のホールドはおススメしないというわけです。もちろん最後は皆さんの判断になりますが、1,2カ月程度の短期勝負、ダメな時は潔く損切りするというのが鉄則だと思います。正直今のスプレッドだと3カ月でも長いくらいです。
まだうーん、となっている方がいるかもなので超簡単に言います。あなたが1000円で買ったETFが今500円になっていたとすると、7月限月の22ドルのものが、超短期の間に44ドルまで急騰しないと買った時のETF価格には戻りません!!ということです。笑
是非これを理解した上で塩漬けにするのか、損切りして違う投資に振り向けるかの判断をするようにしましょう!
ちなみにロールオーバーがいつなのかについては以下記事で考察しています。
おまけ
原油ETFって不思議だなって思ったことありませんか?だって、なんで上場している株式が原油の価格に上手く連動するんだろうって思いません?買いたい人が多ければ原油価格関係なくETFの株価だけ上昇したり、売りたい人が多ければ原油価格の下落以上にETFの株価が下落してもおかしくありませんよね?なぜそうならないのでしょうか?
それはマーケットメーカーによって裁定取引が行われているからです。ETFの株価が原油よりも上昇したらETFを売って、原油よりも下落したら買って利益を出す方々です。その裁定取引によってETF株価は上手く原油資産と連動するようになっているんですねー。
以上おまけでした。笑 原油ETF、知れば知るほど奥が深いですね~~!!
ということで今回は以上です!
最後までお読み頂き有難うございました!!
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